拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。

 何でも、元々病弱だったらしいお母様は、桜小路さんを出産された翌年には、心臓病を患い入退院を繰り返していたらしい。

 その間、お父様も仕事が忙しく、一人っ子だった桜小路さんは、ベビーシッターや使用人の方々と過ごしていたそうだ。

 桜小路さんが三歳になる頃には、寂しい思いをさせたくなくて、できるだけ自宅で養生して、使用人の手を借りながらではあったが、得意だった料理やお菓子作りを、桜小路さんと一緒に楽しんでいたのだという。

 その頃は体調も良く、四月生まれの桜小路さんのために、何か良いことがあったときや特別な日には、紅茶好きだったらしいお母様がダージリンのセカンドフラッシュの茶葉を入れたシフォンケーキを焼いてくれていたらしい。

 それにいつも添えられていたのが、桜風味のホイップクリームだったのだという。

 それが大好物だったらしい桜小路さんは、毎回お母様が心配になるほどたくさん食べていたらしい。

 それもご家族だけでなく、たくさん焼いて使用人にも振る舞われていたため、菱沼さんも何度か食べたことがあったらしい。

 それどそれも長くは続かず、桜小路さんが五歳を迎えた頃には、再び入退院を繰り返すようになったそうだ。

 ある夏の日、お母様が外泊されて帰ってきた折、お祭りに行ったことがなかった桜小路さんをお父様と一緒に下町のお祭りに連れて行き、久々に家族水入らずで楽しい一時を過ごしたのだという。 
 
 その時に、出店でミドリガメをもらって帰ってきたのが、カメ吉なのだそうだ。

 それから一月もしない秋を目前に控えた頃、お母様は病院で静かに息を引き取ったらしい。

 だから桜小路さんにとっては、シフォンケーキもカメ吉も、大好きなお母様との大切な想い出そのものなんだそうだ。

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