拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
一通りの掃除も済ませて、後はカメ吉ルームを残すのみ。
設備に関しては、専門の業者さんが定期的にメンテナンスにきてくれるらしいが、水槽のフィルターはこまめにチェックしないと、排泄物や食べ残った餌などが詰まって水が濁ってしまうらしい。
そうなってしまうと、亀は餌を食べなくなってしまったり病気になってしまうそうで。もっと簡単だと思っていたけれど、亀を飼うのは結構手間がかかるようだ。
といっても、カメ吉の水槽は大きくて、体長二十七センチのカメ吉が小さく見えてしまうほどの設備も見た目もご立派なので、毎日水替えしなくていいから楽なもんだ。
それになにより、カメ吉を眺めているとなんだか癒やされるーー。
フィルターもチェックし終えて、今日も気持ちよさげに立派な青石の上で甲羅干し中のカメ吉を眺めていると。
【ずいぶんご機嫌ね。その様子だと、仲直りはうまくいったのね?】
意識にすーっとそんな言葉が浮かんできて、私は牧本先輩にでも話す感覚で、弾んだ声を出していた。
「そうなんです。でもそれだけじゃないんですよ~。今日もこれからブランマンジェ作るんですけど、もしかしたらパティシエールとして認めてもらえるかもしれなくて、もう嬉しくってぇ!」