拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。

 
 どこから喋ってたのかは定かじゃないが、どうやら私は思ったまんまを口にしていたらしい。

「いいえ、助かりましたよ。少し頭を打っていたようで、三日間意識は失っていたものの、幸い打撲とかすり傷だけで済みましたしねぇ」

「そうなんだ。良かったぁ。あっ、私、思ったこと喋ってたんですね? すみません……っていうか、あなた達は一体、どこのどなたですか?」

 それに対して答えてくれたのは、意外にも死神(どうやら死神ではないようだけど)だった。

「これはこれは失礼いたしました。私《わたくし》は菱沼《ひしぬま》朔太郎《さくたろう》と申します。そしてこちらが桜小路《さくらこうじ》グループご当主のご子息であり、私が執事兼秘書としてお仕えしております、桜小路(はじめ)様でございます」

 桜小路グループっていったら、戦前には日本最大の財閥で、解体された今でも日本経済に多大な影響力を持つという、財閥系企業の、あの桜小路グループだよね?

 その御曹司が私に何の用があるっていうんだろう、と首を傾げる私に、御曹司である桜小路さんから実に素っ気ない声がかけられた。

「どうも」
「……はぁ、どうも。で、どういったご用件でしょうか?」

 感じ悪いなぁ、と思いながらも用件のほうが気になって先を促したところ。

「あなた様は、こちらの創様がたいそう大事にされております、こちらのカメ吉《きち》の命の恩人でございますので、そのお礼をさせて頂きたく、この三日間伺っておりまして。ようやく意識が戻られたようでなによりです」

 返ってきた言葉に私はもっと首を傾げることとなった。

 カメ吉って、水槽に入った亀のことだよね? でも命の恩人って……どういうこと?

 あの時は確か、女の人だった気がするんだけど……。

 それとも私、事故で頭打って可笑しくなってんのかな?

「……はぁ……うッ!?」

 事故に遭った時の記憶を辿りつつ思案していた私は、生返事を返した直後に強烈な頭の痛みに襲われ、そこで思考が遮断されてしまった。

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