拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
……でも、それならそうと一言そう言っといてくれたら、こんなにビックリすることもなかったのに。
と、私が思うのも当然だと思うが、そんなことより今は、カメ吉に転生しているらしい桜小路さんのお母様のことだ。
継母が居なくなったカメ吉ルームで、そう思っていたところに、すーっとお母様の声が割り込んできて。
【やっぱり香水の匂いが凄いわねぇ。早く換気しておいた方がいいわぁ。匂いが付いちゃったら大変。菜々子ちゃん、悪いけどお願いできるかしら?】
いつのまにか、『菜々子ちゃん』呼びになっていることに、半端ない違和感を覚えながら、私はだだっ広い部屋中の換気に奔走したのだった。
✧✦✧
ようやく換気も終えてカメ吉ルームに戻ってきた私はソファに倒れ込んで、「はぁ~、ビックリした」と放心しているところに、
【菜々子ちゃん、お疲れ様】
お母様の優しい声音がすーと沁みてくる。
「……はは」
この現実離れした現実をどう受け止めればいいのかよく分からず、無意識に笑いがこみ上げる。
ーーやっぱり聞こえてくるし。でも、どうしてお母様の声が聞こえるんだろう?
勘案して辿り着いた私の疑問に、お母様の思いがけない言葉が、再びすーと割り込んでくるのだった。
【あぁ、それはきっと、菜々子ちゃんが事故で死ぬのを私が助けたからじゃないかしら】