拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
「あのう、愛梨さん? 菱沼さんの話によると、私がカメ吉というか、愛梨さんのことを助けたって聞いたんですが」
【そりゃそうよ、亀が人間なんて助けられっこないもの】
「ーーえ!? でもさっき、私のこと助けたって」
【ええ、いったわ。いったけど正確には神様ね】
愛梨さんとコントのようなやりとりを経て、得た情報によると、愛梨さんが亡くなったとき、お迎えにきていた死神らしき若い男に、幼い桜小路さんを残して成仏できないと泣きついたところ。
困った死神が神様に事情を伝え、愛梨さんはすぐに人間に生まれ変わる権利を持っているから、それを放棄すればその願いが叶えられるということで、愛梨さんは二つ返事で放棄することにしたらしい。
そうして、言葉を話せないカメ吉なら問題がないということで、前世の記憶を残したまま転生することが決まり、カメ吉が愛梨さんの代わりに人間に転生したのだという。
その時に、人間に生まれ変わる権利を持っていた愛梨さんには、その代わりとして、一つだけ願いが叶えられるという特典をもらっていたらしい。
その特典とやらは、カメ吉の天寿をまっとうしてこの世を去るときに、桜小路さんと話をしようと思って大事にとっておいたらしいが、私が事故に遭ったあの場所に居合わせた愛梨さんが突発的に特典を使ってしまったんだそうだ。