拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
#3 予想外な展開
あの後、強烈な頭痛のせいで何もできない私の代わりに、菱沼さんがナースコールで看護師さんを呼んでくれた。
すぐに若い女性看護師を伴って駆けつけてくれた担当医の話によれば……
事故で頭部を打ったのが原因ではあるものの、頭部の精密検査でも特に異常はなく、痛みは一時的なもので少しずつ治まってくるだろうということだった。
それから、痛みの割には怪我もたいしたことなくて、一週間ほどで退院できるのだという。
なによりホッとしたのが、事故の原因は大型トラックの運転手の居眠りだったらしく、入院費も全てその人が負担してくれるということだった。
事故に遭っているのだから運がいいわけないが、運良く命も助かったし、お金の負担もないということで、万々歳。
お金の心配がないと分かった途端、痛みまで和らいだ気がしてくるんだからゲンキンなものだ。
そんな暢気なことを思いつつ、担当医である年配の医師が看護師と一緒に病室から出て行くのを見送っていると。
「あのう、藤倉菜々子様」
すっかり存在のことなど忘れてしまってた菱沼さんの声が部屋の隅から聞こえてきた。
どうやら、菱沼さんと桜小路さんは、診察の邪魔にならないようにと部屋の隅に控えてくれていたらしい。