拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。

 そんな私に業を煮やしたのは他でもない、さっき私が怒らせてしまった菱沼さんだった。

「おい、チビ。鳩が豆鉄砲食らったような間抜けな面《ツラ》してないでさっさと答えろッ!」

 おそらく、つい今しがた私のせいで桜小路さんからお叱りを受けてしまった事を根に持っているんだろう。

 それはそれは、偉い剣幕だった。

 隣に居る桜小路さんからしてみたら、さぞかし迷惑極まりなかったようだ。

「菱沼、そんなにカリカリして喚くな。さっきから唾が飛んでる」
「あー、すみませんッ」

 爽やかなイケメンフェイスを苦々しげに歪ませた桜小路さんから軽くお叱りを賜ってしまった菱沼さん。

 菱沼さんは大慌てで、自分が飛ばしてしまった唾をさっき大活躍したポケットティッシュで拭き取りつつ、私に向けてナイフのように鋭利な視線を寄越してきた。

 私がひぃ、と心の中で震え上がっているところに、「もういい」という桜小路さんからの声が飛んできて、菱沼さんの鋭利な視線から解き放たれた私がおもむろに声の方へと視線を向けると。 

「それより、どうなんだ? やっぱりパティシエールだからとか、そういう理由からか?」

 さっきからずっと我関せずといった表情を貫いていたはずの桜小路さんの表情が、やけに興味津々といった感じで、いつの間にやらソファから起き上がってきた桜小路さんは、前のめりになっていた。

 そんなに気になることだろうか? と首を傾げつつも答えたところ。

「確かに職業柄、香水は付けたことがありません。化粧については、小さい頃アトピー性皮膚炎だったこともあって、肌に合わないので、仕事の時にはオーガニックのものを使っていたんですけど」
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