拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
相槌の代わりに、うんうんと感心したように頷きつつ聞き耳を立てている桜小路さんの隣で。
「ほう、アレルギー体質とはやはり血筋でしょうかねぇ」
同じように頷く素振りを見せていた菱沼さんが、酷く感心したようにぼそりと呟きを落としたようだったけれど、すぐに遮るようにして。
「『使っていたんですけど』とはどういうことだ?」
焦れたのか、そういって先を促してきた桜小路さんの声によって、菱沼さんの言葉は瞬時に掻き消されてしまい。私の耳に届くことはなかった。
「普段は、肌に負担をかけたくないので、できるだけ化粧はしないようにしているからですけど。やっぱりした方がいいですか?」
別に職場と言っても桜小路さんと菱沼さんくらいしか居ないから化粧なんて無用だと思っていたけど。不快なんだろうか?
「いや。そのままで居てくれた方が俺にとっては都合がいい」
「……都合が……いい?」
どういう意味かよくは理解できなかったものの、化粧に関しては不快だった訳ではなかったようなので一安心。
……していたタイミングで。
「いや。何でもない、こっちの話だ。それより、今朝言っておいたブランマンジェはできてるんだろうな?」
放たれた桜小路さんの声によって、ブランマンジェの話題へと移行した。
それですっかり仕事モードに切り替わった私の頭の中はそのことで埋め尽くされてしまっていて。
「はい、勿論ですッ! 今お持ちしますねッ!」
「あぁ、頼む」
今日こそは桜小路さんに専属パティシエールとして認めてもらうんだ、という思いに駆られていた私は、張り切って準備に取りかかったのだった。