拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
涙味のブランマンジェ
キッチンからだだっ広いロビングダイニングへと戻ってきた私の眼前には、ガラス張りのローテーブルの上に置かれたブランマンジェと桜小路さんが対峙している光景が映し出されている。
初日の緊張感はかなりのものだったけれど、今日は、専属パティシエールとして認めてもらえるかもしれない、という期待感半分、緊張感半分と言ったところだろうか。
桜小路さんがおもむろに、純白の陶器の淵に赤や淡いピンクや黄色の花弁があしらわれた綺麗なお皿を手に取り、スプーンで鮮やかなイチゴのソースの中に浮かび上がるように盛り付けた真っ白なブランマンジェを上品な所作ですくい取って口元へと運んで、じっくり味わっている。
いつもは無愛想極まりないイケメンフェイスに、なんとも言えない、蕩けてしまいそうなほど幸せそうな表情を湛えて、味を噛みしめるようにして、瞼を閉ざしてしまっている。
見ているこっちがうっとり見惚れてしまうほどだ。
それ以上に、こんなにも美味しそうに食べてもらえるなんて、パティシエール冥利に尽きるーー。
この様子だと、専属パティシエールとして認められるのは確実だろう、と確かな手応えが感じて、心の中でガッツポーズを決めていた私の元に、満足げな表情をした桜小路さんから予想通りの言葉が舞い込んできた。
「以前、『帝都ホテル』で食べたことがあるが。その時と同じで、口当たりはまろやかだし、かといって甘すぎず、さっぱりとした後味で、申し分ないな。なんといっても、このソースが良いアクセントになってる」