拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。

 寝耳に水。とはよく言ったものだ。あまりに突拍子もないことを言われたお陰で、目が点状態だ。

 もしかして、これは夢だろうか。そうか、そうだったのか。だったら納得だ。愛梨さんのこともきっとそうに違いない。

 うんうん、とひとり頷いていた私にストップがかかった。

【あら、まぁ、吃驚しちゃったわぁ。創ったら菜々子ちゃんの作るスイーツがあんまり美味しいから、虜になっちゃったのかしらぁ】

 それはやけに楽しそうな口調で、最後にうふふ、と微笑みを零した愛梨さんからだった。

 その声に弾かれるようにして顔を上げた私は、桜小路さんの顔を正面から見据えて、しばし窺ってみる。

 すると、もう用は済んだと言わんばかりに、桜小路さんは私の様子を気にすることなく、実に幸せそうにブランマンジェを食していた。

 まるでここに私など存在していないかのように。

 何? どういうこと? あんな吃驚な発言しておいて、放置ですか? それともただの冗談だったっていうことだろうか。

 それならそうと早くオチつけてくれないとリアクションに困っちゃうんですけど。

「あ、あのう、桜小路さん。さっきのって冗談だったんですよね?」
「おい、チビ。お前はバカか? 創様がそんな冗談を言ってお前を笑わせる訳がないだろう」
【そうよ。そんなこと言ったら、プロポーズした創が可哀想だわぁ】

 放置されたままで困惑中の私が桜小路さんに聞き返したはずが、菱沼さんと愛梨さんからしか返答がなく、しかもその中に『プロポーズ』という単語までがひょっこりと顔を出した。

 桜小路さんから菱沼さんへと視線を移して、窺うも、やっぱり冗談を言ってる風でもない。

ーーもしかして桜小路さんは私のことを好きなのかな?
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