拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
突然の暴露
桜小路さんが居なくなってから、菱沼さんから諸々の経緯なんかを聞かされていた私は、驚きのあまり、事故に遭った時と同じように、危うくブラックアウトしてしまうところだった。
まぁ、でもそれは、聞かされた事があまりにも現実離れしていたからでもあった。
故に、またまたご冗談を、全部あなた方の勘違いですから。
そうとしか思えなかった私は、向かいのソファに座っている菱沼さんに、自信満々で全否定した。
「……あの、それ、何かの間違いですよ。絶対」
けれどやけに真剣な顔をした菱沼さんからは、
「なら、これを見てみろ」
ガラス張りのローテーブルの上にすっと滑らすようにして、一通の古びた手紙と色褪せた一枚の写真をこちらに差し出されることとなり。
「……あのう、これはなんですか?」
途端に、さっきまでの勢いが削がれた私は恐る恐る訪ね返した。
おそらくその事が事実であることを裏付けるモノだろうという察しはつくが、そんなモノ、いくらでも捏造しようと思えばできるだろう。
でも、そこまでするメリットが菱沼さんや桜小路さんにあるとも思えず、もしかして、という思いから、急に怖くなってしまったのだ。
シングルマザーだった母からも伯母夫婦からも、私の父親についての話は一度だって聞いたことがなかった。
おそらく私が知らないほうがいいと思ってのことだったんだろう。
だから、父親の事を聞くのが怖くてどうしようもなかった。
でも同じように、自分の父親のことを知りたいという気持ちだってある。
胸中で、なんとも複雑な心情が飛び交っている最中《さなか》。
「それは、お前の母親である、藤倉愛子さんがお前の父親に宛てた手紙だ。その写真はその手紙に同封されていたようだ。その写真に覚えがあるだろう?」
返された菱沼さんの言葉に、やっぱりそういうことなんだ、と思いつつも、確かめてみないことには何も分からないままだ。
意を決した私は、恐る恐る引き寄せた写真を手に取ってみた。
するとその写真には、おそらく五歳くらいの頃に、『パティスリー藤倉』の店先で撮られたのだろう、母親に抱かれた私が写っている。
そして手紙には、確かに母の字によく似た少し右上がりに書かれた文字で、父親と思われる人物に向けて、幼い私の事を詳細に記されていた。
勿論、父親と思しき男性の名前もフルネームで記されている。
その中には、私に宛てて送られてきた養育費についても触れられていて、最後には、【あなたには迷惑のかからないように、ちゃんと育てていきますので、どうか心配されませんように】と綴られていた。
どうやら菱沼さんからつい先程聞かされた事は真実であるらしい。
そしてそれが事実だとすれば、私と桜小路さんは、義理ではあるらしいが従兄弟同士ということになるようだ。