拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
「……あぁ、はい」
ーーあぁ、そういえば、助けた亀の恩返し……じゃなかった。お礼がどうとかって言ってたんだっけ。
別に、亀のせいで事故に遭った訳じゃないんだから、お礼なんて要らないのに。
ていうか、ペットの亀を助けたお礼をするために三日も訪ねて来るなんて、御曹司ってそんなに暇なのかな? お金持ちの考えることは分かんないや。
菱沼さんの言葉を待つ間、そんなことを内心で呟いていると、予想外な言葉が耳に飛び込んできた。
「失礼かとは思ったのですが、藤倉菜々子様が気を失っておりました間に、身元を確認するために荷物をあらためたのですが。今月末日付で、『帝都ホテル』を解雇されていますね?」
「……え!? どうしてそれを」
吃驚しすぎて思わず声を出してから、ハタと気づく。
そういえば、ハローワークに行く途中だったから、会社でもらった書類も持っていたんだっけ、と。
「急なことで、まだ準備中のためご存じないかもしれませんが。実は、新年度の来月四月より、『帝都ホテル』は桜小路グループの傘下となりますので、勿論人事に関することも把握しているのですが、どうやら手違いがあったようです。誠に申し訳ございませんでした。すぐに藤倉菜々子様の解雇を取り消したいと思いますので、ご安心ください」
けれども、再び口を開いた菱沼さんからはまたまた予想とは違ったモノが返ってきた。
本来ならば喜ぶべき朗報なのだけれど、そうもいかない私は動揺しまくりだった。