拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
超絶不機嫌な王子様
翌朝、アラームよりも少し早く目を覚ました私が寝ぼけ眼をパチパチさせつつ、スマホのアラームを解除しておこうと、なにげなく手を伸ばしたときのこと。
いつもならスムーズに動かせるはずの手が動かないばかりか、身動ぎすらできないという窮屈さを覚えた。
そんなに疲れている訳でもないのにおかしいなぁ、なんて思いつつ、ゆっくりと視線を身体へと下げていった刹那、あたかも抱き枕のように、後ろからすっぽりと包み込むようにして、二本の腕がしっかりと身体に巻き付けられていた。
ーーそういえば、昨夜から桜小路さんの寝室で寝起きすることになったんだっけ。
寝起きでまだちゃんと働かない頭が覚束ないながらも、昨夜の記憶へ辿り着いた頃。
「眠いからもう少し寝かせろ」
背後から私の耳元に顔をぴったりと寄せてきた桜小路さんに、寝起きだからか不機嫌極まりない掠れた低い声で囁かれてしまい、その声が鼓膜を揺さぶるようにダイレクトに響いてきて、触れられている耳元から顔の側面にかけてが燃えるように熱くなってきた。
たちまち穏やかだった鼓動が急激に加速し、ドンドコドンドコ太鼓を打ち鳴らすように暴れまわっている。
今にも心臓が口から飛び出してしまいそうだ。
けれどそんなオカルトな現象がそうそう起こるはずもなく、こういうとき漫画やドラマでお決まりの、それはそれはド派手な悲鳴をあげてしまうのだった。
「ギャーー!?」
そしたら間髪入れず、
「朝からうっさいッ!」
桜小路さんの地を這うようなひっくい怒声が耳元で轟いた。
鼓膜が裂けるんじゃないかと懸念する間も、耳を塞ぐような僅かな隙さえも与えられないまま、私の身体は桜小路さんによって呆気なく組み敷かれているのだった。
昨夜と全く同じ状況だけれど、全く違う。
何故なら、驚いた私が見上げた先には、寝起きだというのに今日も安定の、桜小路さんのイケメンフェイスが鼻先スレスレまで迫っていたからだ。