拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
その声に、反論しようと身構えかけた私の身体が不意にグラリと傾いて、あっという間に、元の木阿弥。
あたかも時間が巻き戻ったかのように、私の身体は桜小路さんによってベッドに組み敷かれていたのだった。
そしてなにやら悪巧みでもしているような黒くて怪しい微笑を湛えた桜小路さんに、真っ直ぐに見据えられ、
「今夜からゆっくり段階を踏んでたっぷり慣らしてやるから安心しろ」
たっぷりと含みを持たせた言葉をお見舞いされてしまうも、そんなモノで安心できるはずがない。
ここで何も言い返さなければ、おそらくずっと言いなりのままだ。
ーーそんなのイヤだ!
「そんなこと言われても、無理なもんは無理ですッ!」
なんとか踏ん張ろうと、怯みそうになるのを堪えて言い返してみたものの。
相も変わらず、ニヤリとした微笑を湛え、眇めた切れ長の瞳に怪しい光を宿した桜小路さんから、
「言っておくが、俺の辞書には『無理』という文字はない。男に免疫がないなら、この俺がつけてやる。だからお前の方こそ、もう諦めろ」
有無を許さないという気迫に満ちたやけに自信たっぷりな口ぶりで宣言されてしまうのだった。
対して私は、桜小路さんの気迫に圧倒されて縮こまっている事しかできないでいる。
頭の片隅で、『お前はナポレオンかッ!』と突っ込むような声が聞こえた気がしたが、共感するような心のゆとりなど、持ちあわせちゃいない。
そんな私におまけとばかりに、桜小路さんはジリジリと焦らすようにして、鼻先スレスレまで距離を詰めてきた。
ーーキスされる!?
そう思いギュッと瞼を閉ざした刹那、首筋に熱くざらりとした舌をねっとりと這わされたのだった。
背筋にゾクゾクッとまた妙な感覚が駆け巡り、「ヒャッ」と思わず声を漏らすやいなや、耳元に唇を寄せてきた桜小路さんによって、
「お前の作るスイーツも絶品だったが、お前のこの穢れを知らない滑らかな白い肌も、肌から醸し出す匂いも、スイーツ同様に甘いな。俺好みに仕込んで、味わうのが今から楽しみだ」
圧倒的な色香を孕んだやけに艶っぽい声音で耳を疑うような言葉を囁かれた。
驚くことに桜小路さんは、私の首筋を舐めて味見をしていたらしい。
朝一で、とんでもない羞恥に襲われ真っ赤っかにさせられてしまった私は、ショート寸前だった。