拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
羞恥と恐怖とでぎゅっと瞼を閉ざした私の耳元に唇を寄せてきた桜小路さんは、これ以上ないくらいに身体を小さく縮めてどうにかやり過ごそうとしている私に、ふっと柔らかな笑みを零してから、
「そんなに怖がらなくても、今すぐ取って食ったりしないから安心しろ」
確か、ファースキスを奪われる前にも言ってたこととなんら変わらない台詞が放たれた。
ーーもう騙されないんだからッ!
「そんなこと言って、ファーストキス奪ったくせにッ! 嘘つきッ! もう信じないッ!」
怒り心頭に発するで放ったまでは良かったのだが……。
「……あれは、お前の見せる反応がいちいち面白いものだったから、つい。悪かった」
意外にもあっさりと自分の非を認めてきた桜小路さんにまたまた唖然とさせられ、勢いを削がれてしまうのだった。
ーーいやいや、だから、そんなの謝ったうちに入んないから。
『反応が面白い』とか、『つい』とか言われちゃってるし。
またまた誤魔化されそうになってしまった私が自分を律して、いざ目をがっと見開いたと同時。
なにやらシュンとした表情で私のことを心配そうに見下ろしている桜小路さんの瞳とかち合ってしまい、たちまち心臓がどくんと大きく跳ね上がった。
そしてここぞというタイミングで、桜小路さんから今度は強い意志のこもったようなしっかりとした声音が放たれて。
「でも、これだけは信じて欲しい。昨夜も言ったが、好きになれそうにない女を傍に置いたり、キスをしたりするのには抵抗があるし。お前を泣かしたくないとも思うし、泣かれたらなんとかして泣き止ませたいとも思う。勿論、機嫌を直してもらいたいとも思ってる。どうしたら機嫌を直してくれる?」
「……どう……したらって」
畳み掛けるようにして、これまた意外なモノが次々に飛び出してきた。
立て続けにお見舞いされた私は、頭が混乱している上に騒がしい鼓動が思考の邪魔をして、喉がつっかえたように二の句が継げないでいる。