拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
そこへ、なにやら閃いたというような表情を湛えた桜小路さんから、
「そういえばさっき、『キスくらい、好きな人としたかったのにッ!』って言ってたよな?」
唐突に、念を押すように聞き返されてしまい。
「……へ?」
意表を突かれてしまった私は妙な返しをしてしまうのだった。
そんな私に向けて、今度は昨夜見せたような黒い笑みを湛えた、そのやけに妖艶な色香を纏った桜小路さんの表情に不覚にも見蕩れてしまっている私に対して。
「てことは、お前は好きな男になら何をされても許せると言うことだよなぁ?」
桜小路さんは、相変わらず黒い微笑を湛えて尚も意味ありげに訪ねてくる。
なにやら嫌な予感がして、けれど桜小路さんの圧倒的色香とその気迫に圧されてしまっている私は、何もできないままただただ見つめ返すことしかできないでいた。
「ならお前には、俺のことを好きにさせてやる。そうしたら文句はないだろう?」
そんな私に向けて、やけに自信たっぷりな口ぶりでそんなことを言ってくるなり、桜小路さんはドヤ顔を浮かべている。
そんなドヤ顔で言われても、絶対そんなこというようなあなたのことなんて好きになりませんから。
ーーいやいや、絶対に好きになるはずがない!
「そんなの横暴です。あなたのことなんか絶対に好きになんかなりませんッ!」
「言ったな? 自慢じゃないが、これまで俺のことを好きにならなかった女なんて誰ひとりとして存在しない。絶対に好きになるに決まっている。賭けてもいいぞ?」
内心では威勢のいいことを散々喚いてはいるが、桜小路さんの圧倒的な色香と気迫の前では、為す術なく睨み返すことしかできないのだけれど。
それでもこればっかりは譲れない。
おそらくこれが桜小路さんに対抗できる最後のチャンスなのだからーー。
「望むところです。その勝負受けて立ちますッ!」
私は声高らかにそう言い放った。