拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
いつもより少し遅めの、午後六時四五分、インターフォンの軽快な音色がキッチン中に鳴り響いた。
モニターを確認するまでもなく桜小路さんと菱沼さんだろう。
けれどちゃんとモニター画面でふたりの姿を確認してから応対しようと、まずはすぐ傍の壁に設置されたモニター画面へと駆け寄った。
これまではそれが面倒で、モニターの確認なんて省いていたのだが……。
そのことを毎回菱沼さんから軽く注意されていただけだったのに、昨日は何故か桜小路さんからも、『一応女なんだから確認くらいしろ』とキツく言われていたため、致し方なく確認したのだった。
すると画面には、いつもは菱沼さんの後ろに桜小路さんの姿があるだけのはずが、なにやら他にも数人の人影があるように見える。
誰だろう? お客様かな? でも、何も言われてないから料理も私と桜小路さんの分しか用意してないんだけど。
なんて思いつつ玄関の扉を開けると、ふたりの後ろには、それぞれに綺麗に包装された箱や紙袋を手にしたマンションのコンシェルジュらしき五人の男性が控えていた。
どの箱や紙袋にも、ブランドに疎い私でも知っているお高そうな有名ハイブランドのロゴが記されている。
五人の男性は私の姿を捉えるや否や、一斉に深々と頭を下げてくれている。
扉の傍の私が一体何事だろうと目を瞬いている間に、菱沼さんの指示により入ってすぐの部屋に手早く全てを運び終えると、私たちに深々と頭を下げてそそくさと帰ってしまったのだった。
何がなにやら分からず様子を窺っていると、菱沼さんは何もなかったかのように、先を行く桜小路さんのビジネスバックを持って後を追っていってしまった。
出遅れた私がリビングダイニングに入ると、ふたりは明日のスケジュールの確認をし始めたところのようで、聞くに聞けなくなってしまうのだった。
気にかかりながらも、このままぼさっと突っ立っていても仕方ないので、自分の持ち場であるキッチンへと戻った私は、コーヒーをドリップするための準備に取りかかった。
スイーツに目のない桜小路さんは、コーヒーもお好きなようで、帰宅したら必ずコーヒーを飲むのがルーティンになっているからだ。
私がリビングにコーヒーをお持ちした頃には、菱沼さんがソファからちょうど立ち上がったところだった。どうやらもう帰ってしまうらしい。