拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
あることとは、一昨日も、昨日も、そして今も、恥ずかしいという気持ちはあれど、桜小路さんに触れられることに関しては、一度も嫌だなんて思ったことがないということだった。
今なんて、あんまり心地よかったものだから、もっともっと触れて欲しい。なんて思ってしまってたくらいだ。
けれども私は、ここまできても自分の気持ちになど全く気づいていなかった。
そんなことよりも、いつになく元気のないように見えてしまった桜小路さんのことをなんとか元気づけてあげよう、という想いに駆られてしまっていたのだ。
そもそもこういうことに疎い私には、桜小路さんの言葉の意図することなど、全く理解できていなかったのだからしょうがない。
『自分でも不思議なんですけど、桜小路さんに触れられたら恥ずかしいとは思っても、嫌だなんて思ったことは一度もありません。だから安心してください』
こうなれば羞恥なんてどこ吹く風で、正面の桜小路さんに向けて、思ったまんまのことを包み隠さず放っていたのだった。
そうしたらそれを聞いた桜小路さんが驚愕の表情を浮かべてすぐに、見当違いなことを問いかけてきて。
『お前、もしかして俺のことが好きなのか?』
『いえ、全然。そんなことある訳ないじゃないですか』
『はーー』
またかと思いつつも即答した私の言葉を聞き届けた途端に、桜小路さんは疲れ果てたように、それはそれは盛大な溜息を垂れ流し始めた。
私はその様子を首を傾げてキョトンと見やっている事しかできずにいたのだけれど。
『まさか、わざとじゃないよな? まぁ、いい。それなら、もっと意識させるまでだ』
しばし勘ぐるような顔をしていたかと思えば、急に黒い笑みを湛えて、なにやらぶつくさと小さな声で独り言ちていた桜小路さんによって、ぐいと胸に抱き寄せられ、宣言するかのように、
『触れられるのが嫌じゃないなら、もう遠慮はしない』
そう言ってきた桜小路さんの纏う大人の色香に魅入られてしまった私は腑抜けたように、ぽーっとしていることしかできないでいる。
その隙に、なんとも甘やかな優しいキスをお見舞いされていたのだった。
何度も何度も優しく解すようにして唇を柔らかく啄まれているうち、あたかも魂でも抜き取られるようにして、私の身体からはクタリと力が抜けていた。
そうして気づいたときには、桜小路さんによって、強い力でぎゅーっと掻き抱くようにして抱きしめられていたのだった。