拾われたパティシエールは愛に飢えた御曹司の無自覚な溺愛にお手上げです。
王子様の嫉妬!?

 やめておけばいいのに、恭平兄ちゃんと何かあったのかと気になって、ついつい問い返したのが運の尽き。

「あの、もしかして、恭平兄ちゃんと何かあったんですか?」
「んあッ!!」

 問い返した私の言葉に、ギロリという効果音でも聞こえてきそうな、鋭い目つきと不快感をあらわにした怒声とをお見舞いされてしまい。

「ひぃっ!?」

 桜小路さんのあまりの気迫に私は身を竦めて震え上がった。

 この状況から逃れたくても、ソファの上でしっかりと組み敷かれているため、当然逃げ場なんて存在しない。

 それなのに桜小路さんは、尚も逃がさないというように、ドンッと顔のすぐ横に両腕を突いて追い込んできて、忌々しげに眉間に深い皺を刻んで、

「もしかして、今も好きなのか?」

相変わらず凄みのあるひっくい声音を轟かせた。

 そんな様子の桜小路さんの態度に、怖さよりも、疑問の方が大きく膨らんでいく。

 この時には、桜小路さんに何を聞かれたかなんて、すっかり失念してしまっていた。
 
 恐る恐る桜小路さんの顔を窺うと、切れ長の瞳は完全に血走っているように見える。

 なんだか、百獣の王であるライオンに、今まさに仕留められようとしている草食動物にでもなったような心地だ。

ーー私、そんなに怒らせるようなこと言ったかな?

 首を傾げていくら思い返してみても、そんな要因など見当たらない。

 ますます謎は深まるばかりだった。

 ちょうどそこへ、何も答えようとしない私に痺れを切らした様子の桜小路さんから、

「おいッ! 好きか嫌いかはっきりしろッ!」

これまた地を這うようなひっくい怒声が放たれた。

 考えに耽っていた私がその声に驚いて、条件反射的に、

「す、好きでーーんんっ!?」

放った言葉は、最後まで言い切ることはできずじまいだった。

 理由は単純、一瞬だけ一際大きく目を見開いた桜小路さんの強引な口づけによって、飲み込まれてしまったからだ。

 さっきの優しい甘やかなキスとは違い、何もかもを強引に奪い尽くすような、乱暴なキス。

 こじ開けた唇から無理矢理捻じ込まれた桜小路さんの舌が私の全てを貪るようにして、縦横無尽に暴れ回っている。

 占領された咥内には、どちらのものかも分からない唾液が溢れかえっていて、ピチャクチャと水音を響かせる。

 お陰で、呼吸もままならない。胸が苦しくて溺れてしまいそうだ。

 それなのに深い大人のキスは尚も激しさを増してより濃厚なものになっていく。

 やがて収まりきらなくなった唾液が、強引に押しつけられている唇の僅かな隙から零れて顎を伝って落ちていく。

 ますます呼吸がままならなくなってきて、涙の膜が膨らんで、視界も意識も薄っすらとぼやけていく。
< 97 / 218 >

この作品をシェア

pagetop