花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
「そのプリント、締め切りいつまでなの?」
「明後日……じゃねえわ明日だわ」
「うげ、いよいよマジモンの鬼だな」
内容は栗ちゃんの頭でも解けるものだけれど、なにせ量が半端じゃない。
今朝課題やっておけばよかったのに。自業自得だ。
「家帰って兄貴に手伝ってもらお。確か今日いたはずだし」
「お兄さんいるんだ?」
「おう。兄貴いま大学1年生だから、記憶もまだ残ってるだろ。どっかの葵ちゃんが手伝ってくれないので」
「どこの葵ちゃんだろうなぁ。全国の葵ちゃんに訊いたって絶対手伝わないって言われると思うんだけど」
ペンを鼻と上唇で挟んでバランスを保つ栗ちゃん。結局プリントは半分も終わらないまま彼の机の中に姿を消してしまった。
「私、こういう課題はたまに両親に手伝ってもらってる。英語とか国語ならお母さんが教えてくれるし、数学とか物理はお父さんが得意なんだ」
「すげ。西の親って仕事なにしてんの?」
「学校の先生。ちょっと遠いところにある高校でふたりとも先生やってるんだ」
「へぇ。だから西も頭いいんだな」
「それは努力だよ。まぁでも、本気で難しい課題が出されたときとかはありがたいかな」
なんとなく会話に混ざれなくてしばらく黙っていると、教室で飛び交っている会話が意外とよく聞こえてくる。昼休みは教室の中に数個のグループができて、それらはめったに交わることなく、まるでひとつの生き物かのようにコロコロと表情を変えていく。