花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
「昨日ちょっと帰るの遅くなったら親に超怒られた」
「マジ? たまにあるよね、普段なら怒らないことでも向こうの都合で死ぬほど怒られるとき」
「私も昨日お母さんの化粧品使ったのバレて怒られたけど、今朝使わなくなったデパコスもらえた」
これは俺たちの隣にいる女子3人組の会話。
「オレ、明日父ちゃんと釣り行ってくる」
「は? 学校はどうすんだよ」
「いいじゃん、久しぶりに出張先から父ちゃん帰ってきてさぁ。親孝行」
「ずりー、俺も連れて行けよ」
これは教室の後ろで箒を振り回している男子4人組の会話。
「今の時期に進路決めろとか無理あるよね」
「ほんとそれ。人生決まる感あるし慎重に色々考えたいんだけど、なんで先生ってあんなに急かしてくるんだろ」
「うちの親さ、時間かけて選びな、蓄えはあるから好きな道選びなよ、ってすごいどっしり構えててくれんの。感謝しかない」
「いいなぁ。超恵まれてんじゃん」
これは学年で成績上位を維持している女子2人の会話。
俺たちの世界なんて、こんなものだ。
家族、友だち、学校の先生。
身の周りで起こることがすべてで、多少の差異はあれど、だいたいみんなが等しく同じような悩みを抱えて毎日を過ごしている。
「そういや最近、葵の妹見てないけど元気してるか? ひまりちゃん、だっけ?」
「え、葵くんって妹いたの? 末っ子のイメージだった」
なんで。
なんで今日に限って家族の話ばかり耳に入ってくるんだ。
学校でなら忘れられると思っていたのに。
強制的に意識の上澄みへ、あの日の記憶が引き上げられてしまう。