花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
「行き先はどこ?」
そう父に尋ねた自分の声は恐ろしいくらいに平坦で、今から断頭台にでものぼるのかというくらい覇気がなかった。
「ここから新幹線で3時間だ」
つまりは他県。もちろん、転校をしなければならないはずだ。
高校2年生の今、転校をするのは少し厄介なことが付きまとってくる。単位の関係だったり、受験の関係だったり。
まぁ、いいか。きっとなんとかなる。
「どれくらいで準備は整うの?」
「……はやくて来月くらいだ。そんなに急ぐのか?」
「新学期に間に合うようにしたいだけだよ。できるだけはやいうちに向こうの生活に慣れて、夏休みが明けてから新しい学校に通うことにしたいんだ」
おそらく俺がこれからお世話になる人は、母親の何番目かの姉のところだろう。数回行ったことがあって、ちょうどここから新幹線で3時間ほど。確か夫婦2人と犬1匹で暮らしていたはずだ。
あそこなら人も良さそうだったし、のどかな田園地帯に家を構えているから都会の喧騒に頭を悩ませる必要もないだろう。
「ごめん。相談しないで決めて。俺も、父さんと母さんとひまりのことは大好きだから。向こうに行ってもこまめに連絡すると思うし」
ひまりに伝えておいてね、と言い残して、そのまま自室へ帰っていく。
座ったままピクリとも動かなかった両親は、俺にどうしてほしかったんだろう。苦しい思いをしながらでもここに残ることを選んでほしかったのかな。祖母と和解して、家族が仲良く過ごせることを望んでいたのかな。
ごめんね、俺にはそんなことできないや。
なかばなげやりになっている自分には、とうの昔に気付いている。
それでも、俺ひとりが頑張っても、仕方ないことなんだ。
他人の気持ちを変えることなんて、結局できないんだから。