花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く


 俺が養子に出されるということが決まってから、家は気味が悪いほど静かになった。原因となっていた祖母の機嫌が直ったといった方が的確かもしれない。

 父さんも母さんは俺との残り時間を楽しく過ごそうとしてくれているのだけど、家族団らんをするには至っていない。祖母から厳しいことを言われ続けることは変わっていないのだ。最近では誰かが俺と話したという話を聞きつけた瞬間ヒステリーを起こして意味不明なことを叫び始めるから本当に手が付けられない。


 俺はそっと自分の部屋に戻って、静かに過ごす。

 ある意味以前と変わらない生活が戻ってきた。

 学校に連れていかれることなく引き出しに眠っていたスマホを取り出す。メッセージアプリを開くと、ひまりから一件連絡が入っていた。


 『お兄ちゃん、ほんとにいいの?』


 ほんとにいいの。おそらく、養子に出されてもいいのか、ということだろう。


 『うん。ちゃんと考えた結果だから。ひまりは上手くやっていくんだよ』


 俺と直接話せなくなった代わりに、頻繁にひまりからメッセージが飛んでくる。祖母はこういった機械類のことは何も知らないから、俺たちが咎められることもない。一番安全で、確実な方法だ。この時代に生まれてよかったと本当に思う。


 『そんなことわかってる』


 ぽこんと吹き出しが現れる。簡素なメッセージだったけれど、それだけで十分だった。


 『ごめんね、ひまりのいないところで勝手に決めちゃって』

 『謝らないでよ。お兄ちゃんは偉くなってあのクソババアに頭下げさせてくれたらそれでいいから』


 ほんと、どこまでも強気だな。

 ふふっと漏れた笑みが、部屋に小さく響いた。

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