花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
「失礼しまーす……」
放課後、少しだけ教室で自習をして、誰もいなくなったタイミングを見計らって保健室に足を忍ばせる。ドアのところには『不在です。用事のある人は職員室へ』といった札がかけられていた。
からからとゆっくりドアを開ける。案の定、誰もいなかった。
ように思えた。
神経を研ぎ澄ませてみると、昨日と同じ、花の香りがする。
あまりの静寂に、どれだけ足音を立てずに歩いても上靴が地面を蹴る音を完全に消すことはできなかった。
ペチリ、ペチリと音を立てて昨日と同じベッドに近寄る。
「あの、西さん、いるの?」
音は何も聞こえない。息をする音も、衣擦れの音も。何も聞こえないけれど、濃い花の香りだけが、彼女がそこにいることをしっかりと証明していた。
「いるよ。今日も服着てないけど」
凛とした声がした次の瞬間、カーテンの縁に細く白い指がかけられた。
「あぁっぁぁぁぁ!! 別に開けなくてもいいから!! ちょっといるのかなって思っただけだから!!!」
彼女の言うことには謎の説得力がある。今も本当に裸なのか不明だけれど、彼女ならそれでも平気でカーテンを開けそうで怖い。