花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
そうして毎日は過ぎていった。
1日、1周間、1カ月。西さんが来ない日が続いて、今では誰も彼女がいないことに対して疑問を抱くなんてことはしない。
それは俺も同じで。
最初の方は保健室に顔を出して西さんがいるかどうかを確かめたり、先生に彼女について何か知っていることはないかと尋ねたりしていたけれど、いつごろからだったか、あまりに変化のない毎日の連続だったから保健室に行くことをやめてしまった。
そうなれば、もうあの保健室は俺の生活にとって身近なものではなくなる。
特にケガをすることもなく、体調を崩すわけでもない。1年に1回の健康診断はまだ先のことだ。滅多に近寄らなくなった保健室は、雰囲気を変えてしまったように思う。
「葵―、今日放課後ヒマか?」
「どしたの?」
「最近できたショッピングセンターでぶらつこうかと思って」
「なんかほしいもんあるの?」
「いや、特にない。今日4限までで終わるし、そのあと先生たちの会議と体育館の工事で練習なくなってさ。ヒマだしちょっと息抜きにと思って」
「わかった。俺も行く」
「珍しいじゃん。どったの?」
自分から誘っておいて珍しいとはどういうことだ。確かに、滅多に放課後遊びに行こうという誘いには乗らない。
ほんとに、今日は何となく。
家に帰ってもすることはないし、親は俺が今日4限までで終わることを知らない。
たまにはいいだろ。
「んじゃ、放課後な」
「おう」
前を向いて机に突っ伏した栗ちゃんは、いつもと変わらず授業を睡眠時間だと勘違いしているようだった。