花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
ストローから唇を離し、普段なかなか聞けない真面目なトーンでそう尋ねられた。
指を触って、何となく落ち着かない気持ちを鎮める。
「ここ1カ月くらい西さんが教室に来てなくて、でも誰もそれを気にしてないような感じだったろ?」
「まぁな」
「だんだん俺の生活に西さんがいたこと忘れそうになってさ。前はあんなに西さんのことが気になってしかたなかったのに、今は西さんがいない生活に慣れちゃってる自分がいる」
俺の細い声なんて、周りの幸せそうな声にすぐかき消されてしまいそうになる。
頑張って声を届けようとするにも、お腹に上手く力が入らない。
「こんなの、恋じゃないのかもって」
それを言葉にしたとき、かつてあった日々の光景がフラッシュバックした。
ふたりで海に行った日のこと、初めてお互いの想いを伝えあった日のこと、誰もいない保健室で唇を重ねた日のこと。
あの時の幸せな気持ちを忘れたわけじゃない。
むしろ、大切に思いすぎてるあまり、それが今後一切失われてしまうかもしれないことに対して怯えているだけなんだとしたら?
そんなのどうしようもない。俺たちに『ずっと』は約束されてないんだから。
「お前らは普通じゃないよ」
いつの間にか空になったプラスチックの容器をテーブルの上にコトンと置く。きちんと聞こえる、それでいて大きすぎない音が耳に流れ込んできた。
「お前らは普通じゃない。西だって、お前だって、何かしら大きな声で言えないような事情があるんだろ? オレは詳しいことは何も知らないけど、『普通じゃない』奴らが『普通』の奴らの恋愛を参考にする方が馬鹿だと思うんだけど」
ま、普通が何かもわかんねーから正解とかねぇしと付け足して、俺の視線を絡めとっていく。