花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
 「んだよてめぇ! アイツを治してぇっていう純粋な気持ちはこれっぽちもねぇのかよ!!」

 「そんなことはっ、一言もっ」

 「言ってねぇってか!? あぁそうだな確かにテメェは言ってねぇなぁ!」


 掴んだシャツとネクタイをぐいっとひねり上げる。学生時代に勉強しかしてなかったのか、情けない顔で俺の腕をつかむ力は驚くほど弱かった。


 「なんとか言えよ!」


 声を荒げると、騒ぎを聞きつけたらしい人たちが飛んできた。

 その人の中にさっきの看護師さんもいて、手を離すように言われる。


 「んでっ……なんでアイツがお前のために辛い思いしなきゃなんねんだよ!」


 未だに何かにおびえたような青ざめた顔をしている眼前の男を、乱暴に突き飛ばす。どうやら看護師さんは一部始終を聞いていたようで、俺の怒りに対して何も言わなかった。

 そういうことかよ、少なくとも私は彼女の味方って。

 この病院には西さんの敵がいたんだ。おそらく、こいつらふたりが主犯ってわけだろう。


 「木崎先生、森山先生、これから医院長のところへ出頭願います。私も同行するので」


 静かな声がフロアに響き渡る。看護師さんの冷ややかな視線は、ふたりの今の地位を下ろす覚悟に満ち溢れていた。


 「宗谷くん、西さんとお話しててもらえるかな。木崎先生を突き飛ばしたことは不問にしておくから」

 「すみません」


 恰幅の良い男、木崎は腰を抜かしたのか、いつまでも床に座り込んでいた。それを見かねた森山が彼の手を引いて立ち上がらせる。

 いい年して、友情ごっこが妙にサマになっていた。


 「本当にごめんなさいと、西さんに伝えておいてください」


 看護師さんは何も悪いことをしていないのに。眉を下げて、俺にそう言った彼女は背筋をピンと伸ばしたまま姿を消した。
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