花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
もう一度、閉まってしまったドアを開ける。
開錠音がもう一度鳴り、今度は白いベッドに向かって歩みを進める。
「泣かないで、西さん」
さっきと違って、彼女は肩を揺らして涙を流していた。
あれだけ声を荒げてしまえば、今までの会話は全て聞こえてしまっていただろう。
しゃくりあげる声が室内に響いている。押し殺そうとしても、嗚咽が涙に混ざって零れ落ちていく。次第に涙の量が増えて、彼女は声を上げて泣き始めた。
「ごめっ……ねっ、あたし……ずっと、こわ、かったっ!」
何とか聞こえてきた言葉を繋ぎ合わせると、それは悲痛な彼女の叫びだった。
ずっと、我慢してきた彼女の叫び。
「ごめん、気付いてあげられなくて」
「ちがう! 葵くんはっ……っ……なんに、もっ悪くない!」
「……あの日のこと、ごめんね」
自分の身体のこと、心配だったろうに。それを隠してずっと気丈に振舞っていた彼女の心のうちは、想像するだけで胸に痛みが走る。
俺の痛みなんて、彼女のものに比べたらどうってことない。
「泣いて。これまで我慢してた分、全部」
そういえば海に行った時も泣いている彼女を慰めたっけ。
彼女の身体が乾いてしまわないことを祈りながら。
そのくせ、俺の腕の中でもっと泣いてほしいと願う。
一瞬でも恋を疑った自分が本当に嫌になる。
こんなにも脆くて、大切で、いとしいのに。