花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
「どう? 落ち着いた?」
「うん……ごめんね」
「いいよ、気にしないで」
俺の制服は西さんの涙で湿ってしまったけれど、この暑い季節ならすぐに乾いてくれるだろう。シャツを脱いで窓際に干す。下に着ていた肌着代わりの黒いTシャツ1枚では少し寒いくらいに、室内はクーラーが効いている。
「もう、私と話してくれないかと思った」
その声にはまだ涙が混ざっていて、いつまた泣き出してもおかしくないような状態だった。話していないときは唇がきゅっと引き結ばれている。
「ごめん、あの時は俺もちょっと余裕なかったんだ」
ベッドの横に置かれたイスに座って西さんの手を握る。
「そんなことで誤魔化せると思ってんの?」
「思ってません!」
バレてた。俺自身、本気で反省しているということを一生懸命伝えて、もう二度とあんなことはしないと誓った。あれは本当に西さんは何も悪くない。俺が勝手に八つ当たりをしただけだから。
「いいよ。仕方ないから許してあげる。それから……ありがとう」
俺からたっぷりと謝罪の言葉を聞いたあと、西さんはそう言った。
「さっきの医者ふたり。すっきりした」
「もしかして、今回急に体調悪くなったのってあの人たちが原因なの?」
「たぶん。なんか薬いっぱい出されて、飲んだらちょっと悪化して。体の水分が急激になくなって脱水症状起こしたんだ」
「他のお医者さんに止められなかったのかな」
「わかんないけど。私に関わりたがるお医者さんあんまりいなくてさ」
それこそ自分によほど自信があって、これまで見たことのない謎の病を治すことで一旗あげてやろうと考えているような人しか、と。
にしても、いい大人が人前で、しかも子どもの前で裏事情を喋るか、普通。
アイツらどう考えても守秘義務とか守れねぇタイプだろうよ。
「それに、ちょっとセクハラまがいのこともあったし……」
「うそだろ」
「ほんと。必要以上に触られたというか、見た目のことを何度も何度も言われた。可愛いねとか、そんなに可愛かったら男の子いっぱい寄ってくるでしょとか、結婚するなら医者を選んだ方がいいよ、とか。正直気持ち悪かった」