花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
 ふつふつと湧き上がる殺意。

 あのとき殺しておけばよかったかもしれない。そんな奴らを手にかけて俺が捕まるのはもちろん勘弁願いたいから殺しはしないけど。

 奴らは医者として仕事をするよりも、都会から離れたところで隠居していた方がはるかに世間のためになるんじゃないだろうか。


 「でも、今回別のお医者さんに対応してもらって、かなり良くなったから。あの人たちが当番じゃないときに病院に運び込まれて正解だった」


 ひどく疲れた顔だった。そりゃ、これまで誰にも助けを求めることができないままあの人たちの相手をしていたら疲れもするだろう。


 「今日検査して大丈夫だったら明日には退院できるんだ。明後日から学校の補習行きたいなって思ってて」

 「そんな無理すんなよ。まだ本調子じゃないだろ」

 「ひとりでベッドの上にいるほうがしんどいんだよ。それに、補習で座ってるくらいなら体にほとんど負担はかからないし、学校行けて精神的にも楽。お医者さんにもOKはもらってるし」


 強い語調でそういわれてしまえば、俺がそれを否定して彼女を止めることなんてできるはずもない。もうすでに心は決まっているみたいだ。


 「勉強遅れた分、しっかり頑張らないと!」

 「そんなに進んでないから安心して。毎日同じことの繰り返しだから」


 小さくガッツポーズをして気合を入れる彼女が、妙に可愛らしく映る。


 「私はさ、今後も身体がどうなるかわからないから、できることはやっておきたいんだ。もし勉強していい成績を残しておけたら、それだけで人生少しでも幅が広がると思うの」


 気合を入れるために折り曲げられていた腕が、ぼすんと白い掛け布団の上に落とされる。

 学校で栗ちゃんが言っていたことと少しだけ重なった。栗ちゃんと西さん。ふたりとも考えて考えて、考えて。たどり着いた結果こそ違うけれど、自分と向き合って答えを出したその姿は、他人に振り回されてばかりの俺にはまぶしかった。


 「ねぇ華香、こっち向いて」


 ほんのちょっとの悪戯心で、彼女の名前を呼んでみた。

 驚いたような顔をした彼女の頭の後ろに手をまわして、そっと唇を奪う。

 久しぶりに重ねた唇は、少しだけ乾燥していて。

 どんな西さんですら愛おしいと感じてしまう自分は、きっともう彼女の深みから抜け出すことはできないんだろうなと、彼女の唇を柔く食みながら頭の片隅で思った。


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