花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
「葵、少しいいか」
「…………」
外に誰も見張りはいないのだろうか。さっきまでリビングにいた佐藤さんを思い出す。
「誰もいないから安心してくれ」
俺の考えていたことなんてまるで全部お見通しかのように彼はそういう。
昔からそうだ。父さんは俺の思っていることを気味が悪いくらいに言い当ててしまう。昔に理由を聞いたことがある。曰く、俺と父さんはよく似ているのだと。
余計な言葉を省けて楽をしたこともあったけれど、言葉を交わす機会を奪われているような気もして、少しだけ、寂しかった。
「……帰るの遅くなって、ごめん」
「あぁ。おかえり」
そういって俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でる。いつぶりだろう、父さんに触れてもらったの。
懐かしい感覚に、目の奥から何かがあふれてきそうになった。すんでのところでそれを堪え、いつもの表情を作る。
「あのな、葵」
優しく、諭すような声。俺がもう玩具を買ってほしくて駄々をこねる子どもじゃないんだから、そんな優しい声は出さないでほしい。
この先にやってくる言葉が想像できてしまって、あの時の自分が嫌になった。
「今日養子の手続きがあらかた済んだんだ。もうすぐおばあ様がいないところに行けるから、安心しなさい」
「……ありがとう」
あーあ。
いつか来ると分かっていた未来だ。自分がこれを願ったのに、なんでこうも体は言うことを聞いてくれないんだろう。
「ごめんな。父さんがもう少し強かったら、こんなことにはならなかったのに」
父さんは何も悪くない。俺が祖母の期待に添えなかったから、祖母の機嫌を損ねてしまったから、こんなことになったんだ。