花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
「これは各自やっておくように。解答は職員室前に置いておくから、必要な人は取っていってください。では、今日は終了です。お疲れさまでした」
なんだ、結局やらなくてよかったのかよ。
時々、こうして真面目にやった人が馬鹿をみるような真似を平気でする先生がいる。自分の力になるだろ、とか、そういう話が聞きたいんじゃない。
自分の実力を上げることなんて、ほんとはどうでもいいのかも。
俺だけ? そうかも。
補習を終えて手洗いに向かう途中、栗ちゃんに出会った。
理系の生徒は朝から夕方までみっしりと授業が組まれている。希望者のみの文系と違って、普段の授業で終わらなかった分を補習で埋めるからほとんど全員強制参加になっているらしい。
「よぉ栗ちゃん。顔死んでんぞ」
「聞いてくれよあおいぃぃ! この間兄貴に成績バレてさぁ」
「やべぇじゃん」
「本気でヤバいんだって。どこの般若かと思うくらい怒ってたぜ、あいつ。はやく推薦もらって楽に大学行きてぇよ」
何気ない会話。昨日の父さんの話が頭をよぎるけれど、今この場でそんな暗い話をしたら栗ちゃんを困らせてしまうに違いない。
こうして、俺はタイミングをつかめないでここまで来たのだ。
筋金入りのヘタレ、ビビり。なんでもお好きなように呼んでほしい。
「栗ちゃん、俺が明日から来なくなるとか言ったらどう思う?」
「ちゃんと勉強しろっていう。補習は来なきゃダメなんだぞー」
奇妙なリズムにのって栗ちゃんが言う。確かに、どこに来なくなるかは言ってない。
補習に、じゃなくて、学校に、だよ。
明日から夏休みまで、じゃなくて、明日からずっと、だよ。
彼にとっては、俺がいなくなるということが実際にはあり得ないことだと考えられてるんだろう。嬉しい。とてつもなくうれしい。
栗ちゃんの生活の中に俺がいることは、当たり前なんだ。