花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く

 「栗ちゃん、」

 「なんだよ」

 「大好きだぜ」


 かなり上にある肩甲骨付近をめがけてグーで殴る。拳はほどよく筋肉のついた背中に弾きとばされて、元の場所に戻ってきた。


 「こわ、いきなりなに。葵死ぬの?」

 「かも。死んだら悲しんでくれる?」

 「悲しむどころの騒ぎじゃねーんだけど。後追いするかも」

 「それだけはマジ勘弁な」


 冗談、冗談だってわかってるけどさ。

 そんなこと言われたら、離れられなくなるじゃん。

 悲しんでくれるかを尋ねて、「いや、それほど」と言われることを予想していた。

 そう答えてくれないと困る、と思いながら。

 それでも、訊くのをやめられなかった。

 結局、期待してたんだよ。
 
 俺は誰かに愛されてたかったんだ。


 「俺がいなくなっても、泣かないでくれよ」

 「だからさっきからなんだよ。本気で自殺でも考えてんの? そうならオレ、誰かに相談しないといけないじゃん。友だちが危ないんですって」


 変なところ真面目で、優しい友だち。


 「そんなことするはずねーだろ。俺はまだやり残したことが多いんだ。もう一回タピオカ食べたいし」

 「そんなに気に入ったのかよ」

 「めっちゃうまかったもん、あれ。今度は違う味も試してみたい」

 「タピオカパーティーでもするか? 大学決まったらの話だけど」

 「どんだけ先の話なんだよ」


 なあ栗ちゃん、実はそんとき、俺いないんだぜ。

 心の中に隠し持っていてもしょうがないのに、封を切ればあふれ出してしまいそうで。


 「じゃ、補習頑張れ」

 「お前だけ先に帰るとかずりーよ!!」


 手を拭いたハンカチをひらひらと振って、悲痛な叫び声をあげる彼に背中を向ける。あと何回会えるかな。あまり大げさなお別れ会はしてほしくないから、出発する直前に伝えようかな。怒られるかな。

 最後くらい、怒られた方がいい思い出になるかも。

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