花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
 「それが全部か?」

 「はい。最後の願いと言えば、騒ぎ立てることなく静かに学校を出ていきたいことくらいですかね。新学期が始まっても、俺のことは話題に出さないでください。みんなが俺の不在に気付いてくれたら、それで少しだけ報われるかなって」

 「栗原とか泣くだろ」

 「ですよね。どうしよっかなって思ってるんです。栗ちゃん、すごい良いヤツだから俺が転校するんだって話なんかしたら着いてきそうで」

 「ありえるな……。容易に想像がつく」


 先生がくっと短い伸びをする。首の骨を鳴らして、机の上に両手を広げた。


 「お前は、他人から好かれてるっていう自覚はあるか?」


 突然の質問にめまいがした。

 好かれてる自覚。

 そんなもの、とうの昔に気付いていないふりを決め込んだ。

 俺をこの地に縛り付けるものは少ない方がいい。じゃないといつまでも未練がましくすがることになる。

 何も考えないようにしても、浮かぶのは栗ちゃんの笑顔に、みんなの明るい声。

 西さんの照れた顔。


 「好かれてる……んですかね。もうわかんなくて」


 情けないほどに、浮かべた笑顔は引きつっていたと思う。それに気付いた先生が苦笑を漏らした。


 「お前はほんとに……最後まで問題児だな」

 「おかしいなぁ、いい子にするのは得意なはずなんですけど」


 どうやらいつの間にか転校手続きは済んでいたらしい。父さんと母さんが俺の知らない間にここまでやってきて全てを話し、手続きを済ませていったそうだ。

 俺の意思が確認できていないと先生は言ったらしいけど、父の今にも泣きそうな顔をみて主張を引っ込めざるを得なかったんだと。

 最後に、転校先でも元気でな、と言われて話は終わった。

 カバンを持って部屋を出るためにドアを開けたときだった。


 「なん……で、」

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