花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
「これだよ、教室に行けない理由。弾みで髪が上がればバレちゃうでしょ?」
名前を知っている花もあれば、知らない花もある。たくさんの花が所狭しと咲いているその様子は、彼女の容姿も相まってひとつの美しい作品のようだった。
「みんなびっくりすると思って、最近は誰かと話すことも控えてたんだ。お医者さんにも今までこんな症状見たことないからどうしていいかわからないって言われてるし」
どうしちゃったんだろうね、私のからだ。
長い睫毛を伏せてそう話す彼女は、もう何もかもを諦めてしまっているようにも思えた。
「痛くは、ないの?」
「痛いけど、薬を飲んでるから何とかなってる。いまのところはね」
医学の知識をかけらも持っていない俺には、何を言うこともできなかった。何か気の利くことを言えたらよかったんだけど、あいにくの唐変木だ。
それでも、
「きれい、だね」
零れ落ちるように、その言葉だけが口から出ていく。
ほとんど無意識だった。
彼女はぽかんと口を開けたあと、その小さなてのひらで顔を隠してそっぽを向いてしまった。
「……そんなこと、初めて言われた」
「え?」
「他の人は大丈夫か、とか、気持ち悪い、とかばっかりで。キレイだなんていわれたことなかったから……」
視線を泳がせながら、彼女は少しだけ嬉しそうにした。
「これがきれいだと思えないなんて、人生損してるね!」
半分くらい損してるよ、と繰り返し言えば、それは言いすぎじゃないかなと返ってくる。いつの間にか、さっきのような気まずさはなくなって、柔らかい空気が俺たちの間に漂っていた。
「ねぇ葵くん、また、ここに来てよ」
「もちろん」
断る理由もない。できれば教室に来てほしいと思ったけれど、それは言葉にせずに飲み込んだ。
この笑顔と花を、自分だけのものにしたいと。
少しだけ、思ってしまったんだ。