花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
西さんが駆けていった方へ全力で進む。
どこだろう。
西さんが向かって行った先にあるものは俺たちの教室、それから資料室、図書室に。
保健室。
いつからか、俺たちがそこで会おうと示し合わせたように集まっていた場所。
同じような扉がいくつも並んでいて、焦った頭では違う部屋に入りそうになってしまう。はやる気持ちを抑えて、なんとか保健室までたどり着いた。
階段を思いっきり駆けたせいか、少しだけ脚が痛い。
ドアのところには、見慣れた不在の札。
俺は知っている。
西さんが保健室にいるときは、必ずこの札がかけられるのだ。
──コンコンコン。
3回のノックに返事をしてもらえないことは分かっていた。部屋に入った瞬間殴られるくらいのことは覚悟して、ドアを開ける。
「西さん、ごめん。俺。葵だよ」
どこにも姿が見当たらない。太陽は真上にいて、窓の向こうには雲一つない青空が広がっている。太陽の光で満たされた部屋は、埃が目に見えるほど明るい。
「西さん、ごめん。今まで隠してて」
ベッドのところにいるであろう彼女に声をかける。相変わらず反応はない。
「お願いだから、顔見せてよ」
なんて自分勝手なんだろう。自分が隠し事をして、西さんを傷つけて、それで顔を見せてほしいなんて。俺が西さんだったら、きっと相手のことを殴り飛ばしているに違いない。
ギシっとベッドのスプリングが軋む音がする。上靴を履いていない華奢な脚がこちらへ向かってくる。黒いソックスに包まれたそれは、今にも転んでしまいそうなほど頼りない動きをしていた。
「葵くん、最近おかしかったの、そのせいだったんだね」
ごめん、ほとんど全部聞いちゃった、と彼女は笑う。
保健室の入り口に立っている俺と、ベッドのそばに立つ西さん。俺たちの距離はきっと3メートルほど。手を伸ばしても触れられない。