花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
「ごめん」
「なんで謝るの」
「だって、俺、誰にも言わなかったから」
「悪いことしたってわかってるんだ?」
「うん」
「そ。」
そっけない返事をされて、あぁついに嫌われたか。と。最後に嫌な思い出が残ってしまった。俺のせいだとわかっていても、彼女なら許してくれると心のどこかで思っていたんだ。
何も言わずにじっとうつむいて立っていると、彼女が裸足のままものすごい勢いで駆けてきた。
ドンっと鎖骨付近に彼女の頭がぶつかる。
「葵くん、つらい時は私がなぐさめるから、いっぱい泣いてね。その代わり、私が泣いてるときは、ぎゅーって強く抱きしめて。約束だよ」
背中に手をまわされてそんなことを言われてしまえば、もう俺に成す術はなかった。
走馬灯のようにこれまでのことが頭の中を駆け巡り、また目の奥がジンと痛くなる。
「詳しいことはわからないけど、自分のずっといた場所を離れるって、すごくつらいことだよね。大好きな人とも離れ離れになるし、会いたいときに会えないんだもん」
言葉がひとつずつ丁寧に選ばれてかみしめられて、ゆっくりと紡がれる。
ぽろり。気付いたときにはこぼれていた。
最近涙を流しすぎのような気がする。
「我慢しないで。わたしだって悲しいんだから」
葵くんが悲しくないわけないよ。西さんの柔らかい声が更に俺の目の奥から涙を引っ張り出してくる。
あぁもう。泣きたくないのに。
彼女の首に顔をうずめて、からだを引き寄せる。力を入れたらこのままポキリと折れてしまいそうで。それでも、この衝動を抑えることなんてできなかった。
「ほんとはっ……行きたく、ないのにっ……なのに、っ俺が……ダ、メだからっ」
頭を撫でられて、全てが決壊した。