花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
誰にも言えなかった。
口ではすべてを諦めて、家を出ることも転校することも受け入れたようなことを言っていたけれど、本当はここから離れたくなくて仕方がなかった。
西さんにも栗ちゃんにも何も言わなかったのは、きっと俺なりの抵抗だったんだ。
起きるはずのない奇跡を期待していたから。
廊下で友だちと話している人たちが羨ましかった。
未来の心配をせずに友だちと話したかった。
自分がいなくなったあとのことを考えたくなんてなかった。
温かい家族がいる人を、憎いとも思った。
上手くいかないことだらけで、俺はどれだけ頑張っても無意味なんだと思っていた。
「大丈夫だよ。みんな葵くんが頑張ってること知ってるし、そんな葵くんが大好きだから」
ゆっくりと、何度も何度も西さんの柔らかいてのひらが俺の頭を行き来する。
「無理して笑ってるの、知ってたよ」
ちゃんと、俺を見てくれている人がいるって。
今ようやく気付けた。
バカみたいだ。
「ねぇ葵くん、私ね、」
ほんとは、葵くんが思っているよりずーっと葵くんのことが好きなんだよ。
その声は、震えていた。
「もっともっと、葵くんのこと教えて。みんなが知らないこと。葵くんのお母さんもお父さんも知らないようなこと。私だけが知ってることを増やしたい。なんでもいいから、全部教えてよ」
そしたらきっと、私はずっと葵くんのことを好きでいられる。
俺はいつだってこのひとには勝てない。
幼子のように声をあげて泣くのをなんとか堪えて、ぐしゃぐしゃになった顔を西さんに向けた。
「ありがとう。全部話すね。俺のこと」