花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
保健室のベッドに腰かけて、全て話した。
ここで先生に話したことでもなく、さっき担任と話したことでもなく、父さんと母さん、ひまりに話したことでもない。俺がずっと心の中に隠し持っていた弱さのかたまり。
「祖母が病的なまでに俺を拒絶するんだ。父さんと母さんが日に日に衰弱していってさ。妹は窮屈そうだし、お弟子さんはずっと困った顔してた。家で養子の話が出されたときは、びっくりしたけど、なんか急に楽になった気がしたんだ。これで誰も苦しまなくて済む、俺も新しいところでまた一から始められるって」
俺が話している間、西さんは静かに首を縦に動かすだけだった。
「でもさ、学校に来て栗ちゃんとかの顔見てると、あれだけすっきりしたはずの気持ちが揺らいだんだ。まだここにいたいって。病院で西さんの顔を見たときに、その場で泣き崩れそうになった」
せっかくいいひとと会えたのに。神様は俺から何もかもを奪っていくって。
「口にしたら本当に離れたくない気持ちが勝っちゃうってわかってたから。申し訳ないけど西さんたちには黙ってようって。そしたら、なんか奇跡が起こってこの話がなかったことになるんじゃないかって」
ほら、小説とか漫画でよくあるでしょ? というと、彼女は少しだけ口元を緩めた。
「結局奇跡なんて起きなかったんだ。めでたくバッドエンドだよ」
これで俺の話はおしまい。
全てを話してしまった爽快感。罪悪感、それから不安。
もう戻れない。どれだけ足掻いても西さんの記憶を消すことはできない。
ぎぎっとぎこちない動きで首を動かす。彼女を見ると、その口元に驚くくらいとても穏やかな笑顔を浮かべていた。
「バッドエンドなんかじゃないよ」
優しく、うたうように。
いつかの彼女の姿と重なる。