花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く

 今日は教室中が騒がしい。

 補習期間中に顔を一度も見ることがなかった人たちがきちんと制服を着て教室にいる。ロッカーのところにサンダルが置いてあったのは、誰かが間違って履いてきたものだろう。夏休み中はよく履くもんな、サンダル。

 夏休みのちょうど半分くらいの今日に設けられた登校日。

 特にこれと言ってすることはないのだけれど、なぜかこの学校の慣習として残っている謎の行事だ。宿題の進捗を確認されたり、夏休みの楽しかった思い出についてみんなの前で語ったり。ほんとに、これといって何をするでもない。

 見渡せば、部活で真っ黒に日焼けした人、部活をしていないにも関わらず真っ黒に日焼けしている人。日焼けしていない人がやけに目立つ。この教室で巨大なオセロができそうだ。


 「なぁ葵見ろよ。あいつ真っ黒じゃね?」

 「俺も思った。目どこにあるかわかんねーんだけど」


 俺たちの視線の先にいる、いわゆるパリピ系の男子。明らかに黒い。黒い。本当に黒い。

 ずっと遠巻きに見ていたら、目が合ってしまった。


 「うげ」

 「うげってなんだよ栗原~~。お前全然日焼けしてないじゃん」

 「お前が焼けすぎなんだよ。おかしいだろその色」

 「これ? 毎日サーフィン行って美女捕まえて楽しくやってたらこうなった」


 男の勲章だとでも言いたげに、彼が俺の肩を抱き寄せてくる。


 「毎日チョー楽しいんだもんよ~。今度栗原も来る? いつでもサーフィン教えてやるよ」

 「いらねーよ」


 ほらどっかいった、と栗ちゃんが彼を追い払うように手を外側に振った。「つれねぇなぁ」と言いながらこの場を離れるも、彼はどこか楽しそうだ。


 「パリピって人生エンジョイしてるよな」

 「今年の夏は一度きりって言葉があんなに似合う男知らねぇわ」


 ふたりして珍獣を見る目で彼を見つめる。悪いヤツじゃないんだけど、根本的にノリがあわない。俺はどう頑張ってもパリピにはなれない。ウェーイとか絶対言えない。


 「なぁ栗ちゃん、宿題どれくらい終わった?」

 「いろんな意味で終わった」
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