花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
にやりと笑って栗ちゃんが前を向く。
朝礼が始まるチャイムとほとんど同時に担任が教室へ入ってきた。
その手には、いつもと同じ生徒帳簿。
起立、礼の号令がかかったあとに先生が教室中を一瞥する。
特に特別なアクションを起こすこともなく。
俺が2学期からいなくなることを、先生も知らないかのようにふるまってくれる。
(優しいんだよなぁ、残酷なくらいに)
きっと、2学期になって空席になった俺のこの場所を見て、真面目なきりりとした表情をひとつも変えることなく点呼をするんだろうな。
寂しいような、当たり前のような。
後ろを振り向くと、先日退院したばかりでまだ体重の戻り切っていない西さんが姿勢正しく座っていた。その顔は少し青白くて、彼女の体調が万全でないことを物語っている。
背中に花があるせいで背もたれに凭れられないのも辛いはずだ。
みんなが前を向いたのを確認してから、机に肘をのせて一息ついたのを見ていたら、彼女と目があってしまった。
「っ……」
見つめあっていたら周囲にからかわれると思って咄嗟に顔を逸らそうとしたとき、西さんの口がゆっくりと動いた。
『あ』『と』『で』『き』『て』『ね』
たぶん、こうだったと思う。
悪戯が成功した子どもみたいに無邪気に笑って、彼女は黒板の方へ視線を向けてしまった。