花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
廊下に散らばっていた人たちが教室に戻り始める。時計を見ると、針はもうすぐ授業が始まる時刻を指していた。
「おっと、来た来た」
俺たちを1年のころから担当してくれている藤岡先生。その手に威圧感のある紙の束はなかった。
「やったぜ」
一瞬だけ後ろを向いてガッツポーズをする栗ちゃん。うわ、びっくりするくらいの嬉しそうな顔。
チャイムが鳴る。
この授業が、俺がこの学校で受ける最後の授業。
先生が話し始めると、教室が静かになる。
その静けさが、これほどまでに怖いと思ったことはなかった。
普段と何一つ変わらない授業風景のはずなのに。
目の前で栗ちゃんは寝ているし、隣の席の人は真面目にノートと向き合っている。
クラスを見渡しても、3分の1くらいは寝ているけれど、そのほかの人はペンを動かしている。
なんの変哲もない、日常の風景なのに。
指の先が冷たくなってきて、上手く文字を綴ることができない。
頭がぼーっとしてきたころ、授業開始から15分くらい経った頃だっただろうか。
「先生、お手洗いに行ってきます」
凛とした声が教室に響き渡る。
静かだった教室に突然落とされたそれを、先生は彼女がそういうことを分かっていたかのように優しく微笑んで、こういった。
「行ってきてください。くれぐれも、気を付けて」
違和感が俺を支配する。