花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く

 栗ちゃんすら俺の顔色を覗き込んで「ほんとに具合悪そうだな」と言ってきたのだから、俺の唇は色を失っているんだろう。

 確かに、さっきは自分が2学期からいなくなることに対して多少の恐怖を感じていたけれど、今はそうでもない。


 「行ってきてください。くれぐれも、気を付けて」


 一瞬足を止めそうになった。

 さっき、西さんがお手洗いに行くと席を立ったときと同じ言葉。

 振り返らずにドアをしめるとアクティビティが始まったのか、教室が一気に騒がしくなった。

 楽しそうな声を背中に受けながら、とりあえず保健室を目指す。

 もう調子なんて悪くない。しっかりした足取りで保健室に向かうなんて変な話だ。

 養護の先生になんて言おうと考えながら、保健室を目指す。

 階段に足をかけたそのときだった。


 「ハンカチ……?」


 淡いピンク色の、見覚えのあるハンカチが階段を上り切ったところに落ちているのが見えた。

 そのハンカチで、確か彼女は腰まで垂れた水を拭いていた。

 ふわりとした手触りのそれを拾い上げ、そこでまた頭の中に疑問が浮かぶ。

 お手洗いは、ここを上がったところにはない。

 西さんはさっき、お手洗いに行ってきますと言って教室を出た。

 なのに、お手洗いのある下の階へ行く階段ではなく、ここよりさらに上へ行くための階段にハンカチを落としている。

 寄り道?

 それとも、そもそもお手洗いに行くつもりなんてなかったとか?

 色々な可能性が頭の中をぐるぐると回る。

 やたらと俺を教室から出したがった藤岡先生、教室を出るときにかけられた西さんと全く同じ言葉。それから、


 『あ』『と』『で』『き』『て』『ね』


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