花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
脚が勝手に駆けだしていた。
階段を2段飛ばして駆けあがる。
上へ、上へ、上へ。
普段なら鍵がかかっていて絶対に入ることのできない屋上へ続く重い扉の奥に、青空が広がっていた。
吸い込まれるように足を踏み入れる。
小学、中学、高校と、一度たりとも屋上に上がったことなんてなかった。青春小説では頻繁に開放されているそこは、いつも頑丈に鍵がかかっている。
屋上が開いていたら、真っ先に誰かが命を絶とうとしていることを考えないといけないはずだ。
「なに、してるの……」
屋上の真ん中で、何もせず、突っ立っている女の子。
ふんわりとした長い茶髪は束ねられていて、首のところから色とりどりの花が顔を見せているのが見えた。
この学校、いや、世界中探したって、そんな人は彼女しかいない。
「西さん、」
掠れた声は、届いたのだろうか。
ただ、彼女の髪と花が風にそよいで。
振り向いた彼女は人形のように美しかった。
「来てくれたんだ」
「……最初は意味がわからなかったけど」
「藤岡先生にお礼言っておかないとね」
風になびく髪を押さえて、えへへと笑う。
「ここの鍵も藤岡先生に頼み込んだの。最初は自殺を疑われちゃった」
当たり前だ。俺が教師でもきっとそうする。