花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
「なに」
「ちょっと待ってて」
ごそごそとポケットから何かを取り出す西さん。柔らかな白い布に包まれた何かが俺の手に乗せられた。
「それ、ずっと持ってて」
「これって……」
紫の控えめな花弁が黄色の筒状花を囲んでいる。見たことはあるけれど、いまこの場で名前を思い出すことはできなかった。
前に見た同じものよりも、一回りほど大きな花。花に触れているてのひらがじんわりと温かくなってくるような気がした。
「私、明日から再入院して手術受けることになったの」
いやに楽しそうな声。普通なら恐怖や不安で塞ぎこみがちになってしまうというのに、彼女の口元には笑みが浮かんでいた。明日遊園地にでも行くような、まぶしい笑顔。
「成功するかはわからないって。お医者さんもやったことないから。咲いてる花を全部取り出して、根っこを突き止めるらしい。成功したら、元の私に戻れるんだって」
「……失敗したらどうなるの?」
「うーん、あんまり考えないようにしてたんだけど、死んじゃうくらいはあり得るかも」
「なんでそんなに楽しそうなんだよ……」
「楽しくはないよ。楽しみなだけ」
「おんなじようなものじゃん」
「そうかなぁ」
やっと普通に戻れるんだから、とよく通る声が風に乗って響いた。じりじりと照り付ける太陽は俺たちを焦がそうと必死だ。