花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
 「いたよ。すげー可愛い彼女が」

 「マジ!? 芸能人だと誰に似てる!?」

 「えー……」


 今はやりの芸能人の顔を思い浮かべてみる。どの人も、西さんの可愛さと美しさをいっぺんに表すには少し足りないような気がした。


 「わかんね。また今度会わせてやるよ」

 「てか、写真持ってねぇの?」

 「持ってない。ちょっと特殊なジジョーってもんがあったから」

 「あー、お前の家の?」

 「それもだけど、向こうにも」

 「ふーん。なんか色々大変なんだな。おれなんか平凡の手本みたいな人間なのに」


 否定はしない。春樹はどこをとっても平凡だ。

 悪い意味ではなく、もちろんいい意味で。

 勉強は可もなく不可もなく。どんな人とでも合わせられる力を持っているせいで、その存在はイマイチパッとしない。「春樹ってどんな人?」と訊かれれば、皆が一斉に首をひねるだろう。

 ただ、その平凡さが俺はとてつもなく羨ましかった。


 「平凡でいいんだよ。波乱万丈な人生なんてしんどいだけだ」

 「そんなこと言ってみてー!!」


 両手で握りこぶしを作って、空に向かって突き上げる。そのまま空中でほどかれた手のひらが、重力に逆らえずにだらんと落ちてきた。


 「ま、平凡でいいや。慣れないことすると熱出るっていうしな」

 「赤ちゃんじゃないんだからよぉ……」


 1年通って慣れた道。もう目をつむってでも帰れるようになっているかもしれない。


 「そんじゃ、また明日な」

 「おう。あ、葵! 明日の朝、おれと課題の答え合わせすること忘れんなよ!」

 「任せろって」


 ぶんぶんと振り回される春樹の手。毎日懲りることなく懸命に手を振ってくれることが、俺を元気にしてくれる。絶対、春樹は俺がそんな風に思ってること知らないだろうけど。

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