花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く


 「ただいまー」

 「おかえり葵ちゃん」

 「あれ、今日の晩ごはんもしかして……」

 「おでん!」

 「やったぁぁぁぁぁぁ」


 台所でソワソワしてるおとうさんと、嬉しそうに鍋の中を見ているおかあさん。寒くなってきたこの季節のおでんは最高においしい。しかも、俺とおとうさんの大好物でもある。夕飯がおでんの日は鍋の中身の減りが異様にはやいとおかあさんが笑っている。


 「ちゃんと手洗ってきなさいな。受験生なのにインフルエンザに罹ったら大変なことになるよ」

 「はーい」

 おとうさんに言われて、洗面所へ向かう。おかあさんが「そういえばハンドソープが切れてたわ」と台所を離れると、おとうさんが鍋にお箸を突っ込んだ。


 「おかあさん! おとうさんがつまみ食いしてる!!」

 「ま! おとうさんの夕飯の分減らしておきましょうか」

 「おかあさん! それはあんまりだ」


 ことりと箸をおいたおとうさんは、太いくっきりとした眉毛を下げて情けない顔をこちらに向けていた。


 「おとうさんってかわいいよね」

 「ね。葵ちゃんもそう思うでしょ」


 こそこそと2人で洗面所へ向かう。


 本当の子どもじゃないのに、喜多夫婦は俺のことを大切に扱ってくれる。この夫婦は近所でも笑顔を絶やさない、明るいひとたちだって評判らしい。


 「はやく手を洗って夕飯にしましょ。おとうさんに全部食べられちゃう」


 夕飯を食べるときはテレビを消す。俺が来る前からの習慣だったんだと。今日あったこととか、明日の予定とか、どんな話でも楽しそうに聞いてくれるから、ご飯を食べるのと喋るので口が渋滞して大変なことになっている。
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