花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
「……ただいま帰りました」
大仰な門をくぐり、無駄に広い玄関で靴を脱ぐ。落ち着いた色の木で作られた、重厚感のある見た目。誰かがいる気配なんてものは微塵もない。気味悪いほど静かで少し暗い廊下を抜けて自室を目指す途中、目の前を通った部屋から甲高い老婆の声が耳を劈いた。
「あなたは何度言っても理解できないのね! これではこの花だけ色が浮いています! 以前もこの話をしたはずですが」
「すみません、おばあさま」
今にも泣きそうな少女の声。障子越しに聞こえる怒声は紛れもない、俺の祖母にあたるひとから発されてるものだ。不快な音は止むことなく、容赦なく少女に降りかかっていく。
「あなたしかこの家を継げるものがいないのです。その責任を感じたことはないのですか。いつまでもへらへらめそめそとして恥ずかしいと思わないのですか。これまで先祖代々この家を守ってきた者に対して失礼だと感じることがないのですか」
強く責める口調が続く。いつしか少女の謝罪の声は涙交じりのものになり、俺は耐えきれなくなってその場を静かに立ち去った。
ごめん、ひまり。
この家では、俺たち兄妹の味方をしてくれる人間は誰一人としていない。
今はもうほとんど諦めてしまっているけれど。
自分の家を、それから祖母を、何度呪ったことか。