花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く
祖母は人前では奥ゆかしい華道家として振舞っているが、家に帰るとその姿が幻だったかのように人柄を変えてしまう。おそらく、こちらが祖母の生まれ持った性質なのだろう。
父親は幸せな家庭が崩壊させてしまったことへの罪悪感で塞ぎがちになり、母親は毎日のように祖母から子育てを失敗しただなんだと言われ、泣いていない時のほうが珍しいくらいになってしまった。
祖母は俺たちふたりを縛り付け、自分の地位を落とさないことに必死になっている。
だから俺は、必然的にいい成績を修めておかなければならなくなった。
勉強をしていると部屋から出なくて済むから、祖母から身を隠すにはむしろ好都合だった。スマホは家では触らないように義務付けられているから、結局勉強くらいしかすることがないのだけれど。
本を読むにしても、昔の文豪が書いたものしか読むことは許されていない。今流行っているラノベを読んだ日には、軟派だとか品が無いだなどと難癖をつけられて、きっとその本をズタズタに裂かれてしまうに違いない。
友だちに連絡先を交換したいと言われても、なるべく断るようにしている。
みんながよく知る「元気な宗谷 葵」の、暗い一面を見せたくないんだ。