花が咲いたら恋に落ち、花が落ちたら愛が咲く



 「西さん、この本ありがとう」


 ベッドサイドの小さなテーブルに本を置いて、俺も椅子に腰かける。


 「どうだった? 最後泣けたでしょ」

 「いや、俺はその最後が気に入らなかった」

 「なんでよ」

「主人公の女の子が、最後死んじゃったでしょ。そういうの、あんま好きじゃない」


 なんか、ごめんね。と言うと彼女は柔らかく笑った。


 「葵くんらしい」


 てっきり怒られると思ったのに。西さんがお気に入りだという本に対して、しかも物語として一番大切なラストに対していちゃもんをつけてしまったから、そんな風に言われて拍子抜けした。


 「優しいよね、誰にでも」


 いつもと同じ、保健室のベッドの上。けれど、今日の彼女は少しだけ寂しそうにしている。

 大きな目は伏せられたまま。彼女が今どんな顔をしているかはわからない。


 「私、いつかこの主人公の女の子みたいに死んじゃうのかなって思ってるんだ」


 少しだけ、声が震えている。

 彼女の口から初めて聞いた未来の話に、心臓が嫌な音を立てて騒ぎ始める。何となく触れてはいけないような気がしていて、彼女が話し始めてくれるのを待っていたのだけれど、いざその話が出てくると身構えるものがある。


 「そんなに、悪いの?」

 「悪いっていうか、わからないから」


 きちんと服を着て髪を下ろしていると、彼女が花畑を背負っているということを忘れそうになる。西さんがどれだけの不安と恐怖を抱いているかは、俺にはわからない。

 前例のない病、そもそも病気なのかどうかもわからないものに身体を侵されていくとは、どんな感覚なんだろう。


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